【2025】改正鳥獣保護管理法とクマ対策:自治体の挑戦と残された課題

目次

はじめに

2025年9月1日、全国的に深刻化するクマ類による人的被害に対応するため、「改正鳥獣保護管理法」が施行されました。

最大の注目点は、市街地での銃猟を市町村長の判断で可能にする「緊急銃猟」制度の創設です。
これまで警察官の命令が必須だった市街地での発砲が、自治体の判断で行えるようになり、人命保護を最優先とする政策転換が図られました。

一方で、制度が整ったからといってすべての課題が解決されたわけではありません。
現場で動くハンターや自治体、住民を含めた協力体制には依然として多くの課題が残されています。

今記事では、法改正の背景、新制度の仕組み、主要自治体の取り組み、現場の課題、そして今後の展望を整理します。


第1章:法改正の背景と「緊急銃猟」制度

クマ被害の深刻化

環境省によると、2023年度のクマによる人的被害は219人と過去最多を記録しました。
山林や農村部だけでなく、市街地や住宅街でも出没が相次ぎ、日常生活に直接的な脅威を与えています。

北海道では新聞配達員が襲われ死亡する事故や、登山者が犠牲になる事故も発生しました。
農業被害も深刻で、函館市では2023年度にエゾシカ約1,302万円、ヒグマ約303万円の被害額が報告されています。

「緊急銃猟」制度の概要

新制度は、市街地に侵入したクマを市町村長の判断で銃猟可能とするものです。
ただし適用には以下の4条件を満たす必要があります。

  1. クマが生活圏に侵入した
  2. 緊急に危害防止が必要である
  3. 銃猟以外の方法では対応困難
  4. 発砲による人への危害の恐れがない

この条件は「人命保護」を最優先にしながら、発砲リスクを最小化する意図を持っています。
しかし現場で一瞬の判断を迫られるハンターには大きな負担となります。


第2章:主要自治体の取り組み

札幌市:包括的マニュアルと訓練

札幌市は「ヒグマ対策委員会」を設置し、緊急銃猟を含むマニュアル案を策定。
避難誘導や交通規制、市民への周知まで幅広い対応を組み込みました。

8月に行われた実地訓練では「発生から駆除委託まで1時間かかった」「装備準備が遅れた」といった課題が判明。
制度と実際の運用のギャップが明らかになりました。

函館市:総合的アプローチ

函館市は既存の「鳥獣被害防止対策協議会」を軸に、エゾシカとヒグマ双方の被害軽減を目指しています。

市を複数ブロックに分けて緊急出動班を配置し、電気柵や箱わな設置、山林への追い払いを継続。

緊急銃猟は「最終手段」と明確に位置づけ、現実的で多層的な対策を進めています。

旭川市:先駆的訓練と予防強化

旭川市は改正施行前に模擬銃を用いた市街地訓練を実施。
複数の機関と連携し、役割分担を確認しました。

さらに、ゴミやコンポスト管理の徹底、河川敷への電気柵や監視カメラ設置など、予防策を重視。
市街地侵入を未然に防ぐ取り組みを強化しています。

主要3都市の比較

観点札幌市函館市旭川市
基本方針包括マニュアル策定と訓練重視計画に統合、出動班配置予防策+先行訓練
訓練実地訓練で初動遅延を確認会議で確認事項を整理模擬銃訓練を先駆け実施
予防策誘引物管理、下草刈り電気柵、箱わな、追い払い電気柵、監視カメラ、啓発
連携市・警察・猟友会協議会に警察・狩猟団体・農業団体警察・猟友会・河川事務所

第3章:運用における課題

猟友会の慎重姿勢

北海道猟友会は全支部に「駆除要請は慎重に判断するように」と通達しました。
背景には「砂川市猟銃所持許可取り消し事件」があります。
行政要請で駆除を行ったにもかかわらず、ハンターが責任を問われ免許を失った事例が不信感を残しています。

初動対応の遅延

札幌市の訓練では「通報から委託まで1時間」を要しました。
多段階の手続きがボトルネックとなり、夜間や休日はさらに遅れる可能性もあります。
制度の「迅速性」を実現するには、意思決定の簡素化と専門部署の設置が求められます。


第4章:捕獲に頼らない多層防御

誘引物管理

放置果樹、生ごみ、屋外コンポストはクマを呼び寄せます。
各自治体は伐採や収集ルール徹底を進めています。

境界の整備

河川敷や耕作放棄地の草刈りによる緩衝帯整備、電気柵の設置は効果的です。
監視カメラによる早期発見も進められています。

住民啓発

「ひぐまっぷ」など地図アプリを活用した情報発信が広がり、遭遇時の行動指針(走らない・背を見せない・静かに距離をとる)も啓発されています。


第5章:政策提言

  1. ハンターの法的リスク軽減
    行政要請下での駆除に伴う事故の責任範囲を明確化し、補償制度を法的に整備する必要があります。
  2. 初動対応の迅速化
    24時間対応部署の設置や情報共有のデジタル化で、通報から出動までを30分以内にする仕組みを整備すべきです。
  3. 予防と捕獲の統合戦略
    捕獲は最後の手段とし、誘引物除去や環境整備、市民啓発を重視する「予防中心」の体制を確立すべきです。

結論

改正鳥獣保護管理法は、人命保護を第一に考えた重要な制度改革です。
しかし、実効性を担保するには
「ハンターの法的安心」
「初動の迅速化」
「予防の徹底」

という三本柱が不可欠です。

制度は「最後の砦」ですが、真の解決はクマを街に呼び込まない環境づくりと、市民・行政・専門家が一体となった多層的な取り組みにあります。

法改正を受けて各自治体はどう取り組んでいくのか、その姿勢がキーとなるかもしれません。

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